老姉妹
Ⅰ
枯枝の様な手を撫でても
白く冷たい頬にそっと触れても
話しかけても
肩を揺らしても
眠るばかり
寝たの?
私も休むね
半分ずれ落ちたカーテンの間を
真冬の白い月が上がっていく
淡い光があたりを包む夜
かつて笑いが渦巻いた部屋の記憶は
ひとつひとつ消えていって
見知らぬ空間になっていく
冷たくよそよそしい空間に
ねぇ
朝
日が昇って
鳥がさえずり始めて
冬のやさしいお日様が
窓辺に柔らかく光を投げかけても
彼女にはとどいていない
壁のカレンダーは色褪せて
今日も昨日と同じ日
『今』が延々と続く
冷たい手
私の手より冷たい
東の空から
異様に明るいシリウスが昇って
位置を移しながら時を告げても
彼女には何の意味も持たない
止まった時に佇んで
ここから動く事などできない
起きて!
目を開けて!
Ⅱ
司法解剖の書類が
結果を伝える
涙もなく
すすり泣きもなく
死後二日経過
[死因]
老衰、栄養失調
生垣のむこうの建物は
すぐそこにあるけれど
深い深い森の中
大通りの騒音も届かず
人の声さえ滅多には
入る意思がなければ入れず
出る意思がなければ出られず
手が届かなかったのか
手を払いのけたのか
・・・今となっては
何十ものゴミ袋
積み重ねられた段ボール箱
年月が運び出されていく
それを
悲しみの感情を失って久しい老女が
無表情で見送る
by kk_wako
| 2014-02-08 14:35
| 詩